さかなの瞼

diary of chapter6

安部公房「飢餓同盟」

間違いなく安部公房な作品なのだけど、他とはまた違った雰囲気の作品でした。ただ読後その世界観に浸っていたいのは相変わらずで、もう読後2ヶ月は経過したにもかかわらず、なかなか抜けきれないというか抜けたくないというか。でも次の作品へも進むためこうして記事を書くことで区切りをつけようとしているのです。

世間から疎外された地方都市。その中でも疎外された人々が戦後の民主主義の煽りに乗せられて革命を起こそうとするのだけど、結局は権力者に抗えず徒労に終わるという滑稽なお話。ある意味喜劇。安部公房の作品らしく人間計器となって活躍するといったSF要素もあるが、特筆すべきは薄気味悪い独特な感性で人々を巻き込む、花井という主人公がなかなか面白い。荒唐無稽なようで…でも気づけば納得させられる冷静沈着な話術とは裏腹に、時折見せる感情的で幼稚な振る舞いなど、個人的にはとても愛着のわくキャラクターである。彼の生い立ちや悲劇とも言える結末といったところもその理由かもしれないが。

特にこの作品は登場人物が多く全体像をイメージするのはなかなか難しかった。まぁ(私の低レベルな頭脳において)安部公房の作品では毎度のことなので慣れっこですが。その分視点を変えれば色んな見え方ができる作品でもあります。安部公房にしてはラストのインパクトに欠けるが、精神を病んでしまった主人公、いや飢餓同盟へのせめてもの救いのため、決意を抱いた彼らの主治医の優しさが空しいやら切ないやらいつまでも読後感を漂わせるよいエッセンスとなっている。彼(主治医)がこの町に赴任してきたときからこの結末は約束されていたのかのように。

飢餓同盟 (新潮文庫)

飢餓同盟 (新潮文庫)