さかなの瞼

diary of chapter6

「雲の墓標」 阿川弘之著(1956年)

以前から今年の春(特攻隊が最も多く命を落とした季節)若しくは終戦記念日が訪れる夏には読もうと温めていた作品。そこへ先日の訃報は全くの偶然。

第二次世界大戦末期に動員された学徒兵の心情が日記形式で綴られる。その仲間の中には戦争や自ら命を捧げることに異を唱える者もあるが、しかし主人公は厳しい環境下に置かれる中で多少気持ちの揺れはあるものの、自然と死を受け入れていく様子で日記は淡々と綴られる。そこに死への甚大な恐怖や自分を失うほどの迷いというものは感じ取れない。しかしそれ故の恐ろしさがあるのだ。

どんな時代においても多くの人は簡単にその流れに合わせて漂ってしまうのだろう。その結果が命に関わる事。短い生涯であってもだ。戦争を知らない私がもしこの主人公と同じ境遇であったとして、やはり散りゆく自身にどこか勇ましいものを覚えるんじゃないかと考えてしまう。多勢であることの安心感は死生観をも操られてしまうのだ。

雲の墓標 (新潮文庫)

雲の墓標 (新潮文庫)